マッチポンプの由来や自作自演との違いとは

マッチポンプの由来や自作自演との違いとは

マッチポンプという言葉がある。マッチが英語のmatch(火をつけるマッチ)を意味し、ポンプはオランダ語のpomp(水を掛ける際に使用するポンプ)が由来となっている。このマッチとポンプを組み合わせた日本語独自の和製外来語が、「マッチポンプ」である。

マッチポンプとは、自分であえて火をつけておきながら、その火を自ら水で消す作業も行って評価を得る手法を意味する。もう少し言えば、わざと揉め事を起こしたり状況を悪化させながら、その解決法も提示することで利を得ようとする行為を指す。マッチポンプはビジネスシーンでも使われる用語で、よく目を凝らして見れば、日常含め、マッチポンプ的な手法は決して少なくないだろう。

和製外来語であることから、マッチポンプを英語で表現する言葉はない。英語に訳す場合は、「自作自演」を表す文章として、act in the play of one’s own writing(自分で書いた劇を自分で演じる)などが挙げられる。

確かに、マッチポンプの類語として自作自演はよく紹介され、意味合いは似ている面もあるものの、言葉のニュアンスに多少違いがあるようにも思う。自作自演とマッチポンプの違いとして、自作自演は、ただ自分で作った台本を自分で演じる、という比重が大きいのに対し、マッチポンプという言葉は、悪意や意図、利益や支配といった側面が、より強調される。

利益のために事業者自ら問題を作り出し、それを解決するための自社の商品やサービスを売り込む手法を「マッチポンプ商法」といいます。例えば、害虫駆除業者が住宅に害虫がいると見せかけ、害虫駆除関連の商品やサービスを売る手法などが挙げられます。「マッチポンプ商法」は悪質な詐欺の場合もあるので注意が必要です。

 – どんな意味?「マッチポンプ」──【ビジネス・カタカナ用語】

上の事例で言えば、害虫がいると見せかけるだけでなく、たとえば、実際に害虫が集まりやすいように仕向けたり、こっそり害虫をばら撒き、そのあとで、この害虫の駆除商品を売るとなったら、さらに悪質かつ分かりやすいマッチポンプと言える。

マッチポンプの起源を調べると、1966年の黒い霧事件の際、田中彰治代議士の手口に関する新聞の言及で使われ始めた、という記録が残っている(参考 : 「マッチポンプ」という言葉が初めて新聞などで使われたのはいつか。誰に対して使われたものか。)。また、その数年前、1961年の政治家の松井誠議員の国会質問で、マッチポンプという言葉が登場している。

世に、いわゆるマッチ・ポンプ方式といわれるものがあります。右手のマッチで、公共料金を上げて、もって物価値上げに火をつけながら、左手のポンプでは、物価値上げを抑制するがごとき矛盾したゼスチュアを示すのをいうのでございましょう。

–  国会会議録

この語り口を見るかぎり、マッチポンプ方式というのは、この頃すでに一般では割と普及していた表現だったように伺える。ただ、誰がいつ頃から言い始めたのか、正確な起源はよく分かっていない。

マッチポンプ的な手法というのは、意図的にせよ、結果的にせよ、世の中に相当溢れている。たとえば、恋愛の駆け引きとして、相手をわざと不安にさせながら自ら安心を与える、という手法も、ある種のマッチポンプであり、このままだと地獄に落ちるぞ、と怯えさせながら、この壺や数珠さえあれば救われる、という霊感商法もマッチポンプと言える。また、文字通り、自分で火をつけ、水で消火する放火魔の消防士もいる。

個々人の関係性という規模から、より大きな規模まで、マッチポンプは無数にある(個人的には、マッチポンプやプロパガンダという発想の存在を、中学や高校の授業などで教えたほうがいいと思う)。必ずしもそれが単純悪というわけではないが、意識的なものから無自覚なものまで、この社会にはマッチポンプが溢れ、その作用を利用している人たちも少なくないことは、物事を判断する際に考慮したほうがよいのではないかと思う。

1+