AIチャットくんは満月の夜を知らない

AIチャットくんは満月の夜を知らない

話題になっている会話形式でやりとりができる対話型人工知能ボット「ChatGPT」。このChatGPTをLINEで使える「AIチャットくん」を試してみた。間違いや決めつけも一部見られるものの、自然なやりとりには驚いたし、もっと自然になっていったら、電子的なツールを通した話の相手がAIかどうか分からなくなるのではないかと思う。

やがては僕の性格や経験や知識や遺伝子情報を吸収した分身のAIが、相手の性格や経験や知識や遺伝子情報を吸収した分身のAIと会話するようになり、分身同士で会話を重ね、代わりに恋愛の過程も行ってくれるようになるだろうか。あらゆる喧嘩やトラブルのシミュレーションも予め教えられるようになるかもしれない、などと想像する。

AIチャットくんは、返しやすい質問なら即答するのに、難しい質問や文章が長くなるようなら、しばらく時間がかかる。返信までの時間が、その都度違うことに、勝手に「人間性」を付与している自分に気づく。

試しに、詩が書けるか訊いたら、「申し訳ありませんが、私は人工知能のため、感情を持たず、詩を作ることもできません。しかし、詩を作ることができる人工知能の研究も進んでいますので、将来的には私にも詩を作ることができるかもしれません。」と返ってきた。感情がないから、詩が書けない、というのは、本質的なことだと思う。合理性を基準にすれば、感情は、人間にとって「弱み」と捉えられる。こんなものがなければ、もっとスムーズに行くのに、ということが沢山あり、感情がないことが、合理性を追求した機械というものの利点と言える。だから、わざわざ感情を持たせることは、彼らにとっての利点の損失であり、しかし、その感情がない以上は、詩も書けない。

一方で、感情が必要ないような、論理的な説明の文章は書けるのだろう(詩に関しても、後に、「感情はないものの、美しい言葉やリズムを作り出すことはできる」ということで、美しい言葉をリズムよく並べた韻文は送られてきた)。「満月」に関するエッセイを書いてほしい、とお願いしたら、いつもよりちょっとだけ長い間を置き、次のような文章が返ってきた。

満月には不思議な力がある。ロマンチックだと感じたり、怖いと感じたり、色々な感情やイメージを呼び起こすものだ。誰しもが、一度は満月を見た経験があるだろう。清々しい夜空と一緒に輝く満月は視覚的な美しさを感じさせるが、私たちの中にある、何かを感じる心地よいものでもある。

近年では、満月が持つ別の力についても注目されるようになった。月齢が満月になると、治癒力や回復力が高まるという考え方がある。また、月の満ち欠けは、多くの文化において様々な象徴的な意味を持っており、神聖なものとして扱われることもある。しかし、それ以上に私たちに魅力を与えるのは、夜の満月の切なさや神秘的な雰囲気だろう。恋人たちは、ロマンチックなムードの中でこの美しい月を見上げることで、自分たちの関係がより深くなるような感覚を覚えることもある。

一方で、満月には怖さもある。古くから、満月はあやしい夜の象徴として扱われてきた。人は、月明かりで自然物が見えやすくなり、そして、怪物や魔法使いが現れるかもしれないと考えることもあった。とは言え、満月がもつ刺激や不気味さも、また美しい映像へと変えることができる。それは、芸術家の手によって素晴らしい作品を造り出し、私たちに永遠の感動を提供する。

私たちの内面にある感情を直接的に喚起する満月の力。これは、単なる自然現象にすぎないかもしれない。しかし、私たちはこの美しさを感じて、思いやり、共感、そして創造力を引き出すことができるのだ。

想像していたよりもスピリチュアルかつ文学的で、また一つの文章として、だいぶ仕上がっている。AI自身には感情がなくても、感情に関する論理的な文章は書ける。満月の不思議な魅力を、感覚として体感はできなくても、そういうものがある、ということは表現できる。逆に言えば、この満月に関するエッセイから零れ落ちているものが、「人間」が描けるものなのかもしれない。

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