原因ときっかけの違い

原因という言葉がある。物事の原因を探る、といった使われ方をされ、何が理由でこうなったか、という出発点を意味する。一方、似たような類語として、「きっかけ(漢字表記では「切っ掛け」と書く)」という表現もある。こちらも、広く言えば、物事がそうなった理由を意味する。

辞書的な定義としては、それぞれ以下の通りとなる。

原因 : ある物事や状態をひき起こすもと(として働くこと)

きっかけ : 物事を始めるはずみ(となるもの)。機会や動機や手がかり。

意味としては概ね似ているが、原因ときっかけには違いがある。もう少し正確に言えば、原因ときっかけは、「必ずしも同じではない」。この「原因」と「きっかけ」の違いについて、具体例を用いながら考えてみたいと思う。

たとえば、もういっぱいいっぱいなんだと、誰かが涙を流したとき、涙がこぼれた「原因」とは何か。恐らく、そのときの原因は一つとは限らない。仕事のストレスかもしれないし、恋愛の悩みかもしれない。子供の頃に負った心の傷が少しずつ蓄積していたのかもしれない。また、その様々な要因が、複合的かつ複雑に絡み合っていたのかもしれない。別の視点から、「ちょっと待ってくれ、その原因を説明しよう」と、身体的な「メカニズム」を、涙の原因の説明に当てる科学者もいるかもしれない。あるいは、コップの水が今にも溢れ出しそうなときに、周囲の人に言われた些細な一言が、「最後の一滴」となって涙が溢れた際、そのきっかけとなった一言が、原因の全てを押し付けられることもあるだろう。

しかし、それは「きっかけ」ではあったとしても、「原因(の全て)」とは限らない。それにもかかわらず、我々は、つい「原因」を排除すれば「解決」に向かう、と考え、その「原因」として、単一であり表面的なものを犯人に仕立てる傾向にある。きっかけに過ぎないものが、全部の原因だと思い、そのきっかけとなった対象さえ排除すれば、もう安心だ、と思う。

だが、本当にそれは「原因」だったのだろうか。単なる「きっかけ」ではないのか。あるいは、これが原因です、と指摘されているものは、「メカニズム」の説明に過ぎないのではないか。原因というのは、「一つ」なのか、また、その「奥」の根本的な原因もあるのではないか。

こうした疑問を持つというのは非常に重要である。さもなくば、その都度、目に入った「きっかけ」を排除しては束の間の安心を得る、ということを繰り返すことになる。そして、本当に大切なものまで捨て去っていくことになるかもしれない。対処法も大きく変わるので、原因ときっかけの違いは、よく見極める必要がある。

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