階級社会とボカノフスキー法(『すばらしい新世界』)

階級社会とボカノフスキー法(『すばらしい新世界』)

オルダス・ハクスリーのディストピア小説『すばらしい新世界』のなかでは、一つの世界国家が支配し、「共有・均等・安定」がスローガンとして掲げられている。その実現のために、徹底した管理社会が築かれ、プライバシーは存在しない。また、家族という概念もなく、誰もが人工的な方法で生産され、彼らは皆生まれつきピラミッド型の階級社会に属している。階級は、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、エプシロンに分類され、服の色も決まっている。

すばらしい新世界

画像 : BOKANOVSKY PROCESS

アルファとベータは、後述するボカノフスキー法は使用されず、一つの受精卵から一つの胎児、そして一人の人間として製造される支配階級で、知的教育も受けているため、ジャーナリストや政府省庁、教授などの職業に就き、外見も美しい者が多い。ガンマ、デルタ、エプシロンは、ボカノフスキー法を使った大量生産が行われる労働者階級で、下の階級になるほど見た目も悪く、体も小さく操作される。試験管のなかで育てる胎児の段階で、酸素を送る量を減らしたり、血液にアルコールを混入するなどの操作で、知能や身体機能を意図的に低下させられる。

所長が長い沈黙を破った。「エプシロン階級の胎児には、エプシロン的遺伝形質のみならず、エプシロン的環境も与えなければならんことがわからんのかねっ」 – オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』

「下の階級ほど酸素を減らすんですよ」とフォスターが言った。まず影響を受けるのが脳。その次が骨格。 – オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』

ガンマ、デルタ、エプシロンの「製造」に当たって使用されるボカノフスキー法とは、大量生産の原則が応用された手法で、一個の受精卵に、耐えられるぎりぎりの負荷を与えることで8〜96個に分裂させ、意図的に均等な双生児を大量に作り出す。数百万人の一卵性多胎児。この手法は、プフィッツナーとカワグチという二人の人物によって発見された理論とされる。

「要するに」と所長は結論づける。「ボカノフスキー法とは一連の成長阻害処置だ。成長を邪魔すると、パラドキシカルにも、卵は増殖することで対応するのだ」 – オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』

ボカノフスキー法によって同一規格の男女が大量生産されることで、彼らが同じ工場で同じ機械を動かすことになり、社会の安定性スタビリティが保たれる、と所長は熱く語る。

ボカノフスキー法

画像 : BRAVE NEW WORLD

胎児の段階での操作としては、酸素供給量の調整などの他に、「条件付け」も行われる。生まれる前に属する階級が決定している彼らが、成人したあとに与えられる自己の地位や環境に不満を抱かないような処置を施す。たとえば、瓶に入れられた胎児をある種のトンネルに通す。トンネルには途中切れ目が開かれ、熱い部分と冷たい部分とあり、冷たい部分を通すとき、同時に不快な要素として強いX線を与えることで寒さを嫌うようになり、この工程を経た胎児は、熱帯地方の鉱山や製鉄所などで働くことになる。運命も、嗜好も、人為的に決められている。

「それこそが」と所長がもったいぶった口調で言う。「幸福な人生を送る秘訣なのだよ ─── 自分がやらなければならないことを好むということが。条件付けの目的はそこにある。逃れられない社会的運命を好きになるよう仕向けることにね」  – オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』

この世界では、製造の段階でボカノフスキー法を用い、また様々な「条件付け」を通し、効率的で操作的な養育が行われるようになっている。その結果、誰もが満足し、「安定」した世界が保たれている。

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