アメリカの朝食ベーコンエッグとPR

アメリカの朝食ベーコンエッグとPR

第一次大戦では政府のプロパガンダ活動に従事し、プロパガンダの専門家として「広報PRの父」とも称されるエドワード・バーネイズの代表的な仕事の一つに、アメリカの朝食にベーコンエッグを定着させた、という話がある。

現在、アメリカの朝ごはんの定番メニューと言えば、卵料理とベーコンという組み合わせが一般的にイメージしやすいのではないだろうか。

ベーコンエッグ

朝食にベーコンエッグ

この朝ごはんにベーコンエッグというのは、決してアメリカに古くから存在した食文化というわけではなく、1920年代に、食肉加工会社によって行われたベーコン促進キャンペーンの結果として定着したものであり、こうした朝食スタイルが定番化される以前のアメリカの朝のメニューは、穀物のお粥またはロールパン、果物、一杯のコーヒーやオレンジジュースといった割合に控えめなものだった。

あるとき、食肉加工会社のBeech-Nut社は、ベーコンの消費量を伸ばすためにバーネイズに仕事を依頼した。普通、ベーコンの販売促進を行うなら、「ベーコンは美味しい」ということを謳ったチラシ広告を繰り返し出すことが考えられる。しかし、バーネイズのPR手法は違った。

依頼を受けたバーネイズは、まず、多くのアメリカ人の朝ごはんが軽めであることを調べたあと、5000人の医師に手紙でアンケート調査し、「健康のために朝食に摂るものは、高栄養、高カロリー食のほうがよいか」と質問した。これは多くの人々が医師の意見に信頼を寄せていると考えてのことだった。

そのアンケートに、9割の医師がイエスと回答すると、バーネイズは「4500人の医師が健康のために高栄養、高カロリーの朝食を推奨している」という記事を新聞各紙を通じて全米に広め、また、その朝食の望ましい例として「ベーコンエッグ」を挙げた。結果、朝食にはベーコンエッグがよい、という話は多くのひとの目に触れ、アメリカで朝ごはんにベーコンエッグを食べる、というライフスタイルが定着、ベーコンの売り上げも飛躍的に伸びることとなった。

バーネイズは、自身のベーコンPRの手法について、数年後に出版された著書『プロパガンダ』のなかで次のように語っている。

現代社会がどのようなグループによって成り立っているかを把握し、大衆心理学の原理を前提にする。そして、まずこう問いかけるのだ。「世間の食生活に影響をあたえる人物は誰だろう」。答えは明らかだ。「お医者さん」でしょう。

そこで、この新しいやり方を身につけたこの会社の営業部の社員は、「ベーコンを食べるのは健康によい」と発言してくれるように医者に提案するのだ。この営業部員は、多くの人が医者の助言になら従うものだということをデータに基づく調査の結果で理解している。なぜなら、人間というのは医者の言うことには弱いという心理学的傾向がある。彼はそのことを知っているのである。 –  エドワード・バーネイズ 『プロパガンダ』

従来通りのようにベーコンの印刷物広告のみに頼った方法では、朝食の定番を変え、長期的な需要に導く、ということまではできなかっただろう。バーネイズは、目標を明確化させ、ターゲットを絞り、彼らに影響を与えられるオピニオンリーダーを探る。そして、自然とその方向に導かれるような環境、すなわち、「お客にその商品が欲しいと思わせるように、そのような感情が生まれるような“社会的な環境”を作り出す」のである。

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