「ワクチンに感謝、接種しましょう」の不思議

神奈川県の黒岩知事が、新型コロナに感染し、微熱と喉の痛み、倦怠感の症状があるとのこと。黒岩知事は、6日前に5回目のワクチンを接種したばかりだった。

12月3日、様々な首長と同様に、Twitterで「昨日、ワクチンを接種しました」というアピールをした黒岩知事。それからまもなく、12月8日のこと。「黒岩知事、コロナ感染」のニュース。

このパターンで記憶に新しいのが、8月の岸田首相の一件。岸田首相は、ワクチン4回目接種から9日後に新型コロナに感染した。4回目の接種をしました、とわざわざ動画まで公開してPRした直後の感染だった。

その後、岸田首相が言ったのは、「ワクチンのおかげ」というものだった。「ワクチンのおかげで、この程度の症状で済んだ」と、むしろPRの材料としたのである(参照 : 岸田首相、新型コロナ隔離から復帰し対面で記者会見「強く感じたのはワクチンの有用性」|サンスポ)。

ちなみに、ワクチンを推進している医療記者の岩永記者も、ワクチン接種から8日後に感染している(「8日前には5回目となるBA.5対応型の2価ワクチンもうっていた。」|医療記者、新型コロナに感染する 当事者になってショックを受けた自分の感情)。

もし、感染予防ではなく重症化予防がメインだから感染自体は当然だ、と言うなら、「周りの大切な人のために」などと情緒的で善意につけ込んだPRではなく、「重症化リスクのある人が、ご自身のために」と言うべきではないかと思う。

物語性のようなキャンペーン

また、「意味がない」だけでなく、打てば打つほど罹りやすくなる、という「逆効果」の可能性も考えたほうがいいと思う。兵庫県保険医協会の保険医新聞では、医師の広川氏と、福島雅典京都大学名誉教授による、次のような会話が掲載されている。

広川 先日開かれた兵庫県保険医協会の西宮・芦屋支部の世話人会で「発熱外来の実感としてワクチン接種の有無で有意差を感じない」「ワクチンを接種し続けても感染者は増え続けている」「重症化防止のエビデンスもないのではないか」との意見が出されました。お盆以降のごく短期間ですが私が診察した患者さんの状況でも、抗原検査で20人陽性で、9割がワクチンを受けられた方で、4回目を接種してから1週間前後の2人が陽性でした。

福島 開業医の先生方が実臨床の経験から「ワクチンが効いていないのではないか」との実感を持っているとの話は非常に重要です。そもそも「接種した人の方が陽性率は高い」ことは、免疫学的に重大なことを示している可能性があります。–  特別インタビュー 科学的怠慢に満ちた国の新型コロナ対応

それにしても、岸田首相が、接種後すぐに感染しながら、重症化を防げたのはワクチンのおかげだ、という主張をしたように、海外でも、まるで「決まりごと」になっているのかと思えるほどに同じようなことを言っている。

米国のヒラリー・クリントン氏が、2022年3月、コロナ感染の際に言った言葉が、「(症状が軽く)ワクチンに感謝、皆さん接種しましょう」という内容のものだった。

ヒラリー氏は、「コロナの検査で陽性反応が出ました。軽い風邪の症状が出ていますが、体調は大丈夫です。ワクチンが重症化から守ってくれることに、感謝しています。まだの方は、ぜひワクチン接種とブースターをお願いします。」とツイートしている。

そして、夫のビル・クリントン元大統領が、11月末にコロナ感染した際に言った言葉も、同じく、「(症状が軽く)ワクチンに感謝、皆さん接種しましょう」というものだ。

ビル・クリントン氏は、「コロナの検査で陽性反応が出てしまいました。軽い症状ですが、全体的に元気で、家でも忙しくしています。ワクチンのブースターのおかげで軽症で済んでいることに感謝していますし、これから冬に向かう皆さんには、ぜひ同じように接種していただきたいと思います」とツイートしている。

実際にワクチンのおかげで重症化しなかったかどうかの確証は何もなくても、ワクチンのおかげで「これくらいで済みました」と言うしかないのだろうが、随分と似たようなツイートに、広告塔になるための指南役でもいるのだろうか、と勘ぐりたくなる。

過去、インフルエンザワクチンを接種し、まもなく感染したら、「なんだよ、効かないじゃん」と考える人も少なくなかったと思う(打った年に限って感染した、という話も聞く)。

クリントン夫妻が、接種後どれくらいの日数だったかは分からないが、岸田首相のようにあっという間に、たとえばインフルエンザワクチンの接種から数日後にインフルエンザになった人が、「ワクチンに感謝、皆さん接種しましょう」と言ったら、なんだそれは…となっていたのではないだろうか。

わざわざ、「接種しました」とアピールし、まもなく感染したあと、「ワクチンに感謝、皆さん接種しましょう」と言われたら、信じている人は、「うわぁ、やっぱり凄いんだ」と感嘆するのかもしれない(信じることは自由である)が、そうでない人からしたら、冷めた、遠い目で見る以外にないと思う。

ちなみに、接種後6日でコロナ感染した黒岩知事は、「一週間前に(ファイザーの)5回目のワクチンを打ったばかり。でもやはりキツイです。ワクチン打ってなかったらと思うと、打ってて良かったと思います。」と述べ、さらに、「治療薬が使えるというのは良かったです」とファイザーの薬の写真を挙げていた。

個人的な感覚かもしれないが、だいぶ棒読みのように思える。この人たちは、一体製薬会社のなんなのだろう、と思う。

>>一体、いつまで打てばいい? “免疫学の権威”が語る「いまコロナワクチンについて分かっていること」|デイリー新潮

最近のマスクに関する矛盾も、せっかくなので記録しておこうと思う。

柳ヶ瀬議員が、岸田首相のマスクの件に関し、「ここではしているが、海外ではしていない。ダブルスタンダードではないか」と追及した際、岸田首相は、はっきりとしない口調で、「当地のやり方に従っている」と回答している。

それから数日後、日本サービス大賞の表彰式に出席した岸田総理。会場は、東京都港区赤坂のANAインターコンチネンタルホテル東京。そのときの岸田首相の振る舞いは、もはや「サイン」ではないかとすら思えるものだった。

最初はマスクをつけ、近づいて表彰状を読み上げ、渡すというときにマスクを外し、それでも間にパーテーションがあるからよし、という設定なのかと思いきや、途中からパーテーションの横に出て、なにやら話しかけながら直接手渡し、一緒に並んで写真を撮っている。

パーテーションがちょっと可哀想でさえあった。全く、滑稽で不思議なことばかりだなと思う。

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