YouTubeの検閲

YouTubeの検閲

即削除

YouTubeで接種の危険性を訴えると、名前のある専門家などが参加していても、「正しい医療情報」ではないということから削除される。このこと自体、あまり知られていないかもしれない(Twitterで「ワクチン YouTube 削除」などと検索すると色々と出てくる)が、そのために、具体的な単語を使えずに、ピー音や別の言葉に言い換えるなど、工夫しながら動画を配信している人も少なくない。

Twitterでの発信も、英語圏だとツイートもアカウントも随分削除されていたようだが、日本では言語の壁のおかげか、それほど厳しくなかったので、正直、YouTubeの検閲の度合いがピンと来ていなかった。ブログの場合は、Googleの検索で、医療情報に関しては、正式な医療機関の発信でないと検索順位が著しく下がったり表示されない、ということはあり、同じGoogleなので、YouTubeも、検閲が厳しいとは言っても、専門分野の人の言葉で、こういう危険性、こういう可能性がある、という懸念の表明程度なら、たとえ検索順位は下げられたとしても、公開自体は許容されるのではないか、と思っていたが、甘かった。

試しに、某国立大学所属の専門家の発信を一部引用した動画を載せたら、驚くほどあっという間に削除され、登録のアカウントに警告が届いた。さながら、侵入者をAI警察が即座に狙撃するようなイメージであり、どことなく未来の世界を予感させるものだった。このときアップした動画は、特にピー音などは使わなかった。そもそも、ピー音や隠語を使うと、それだけで怪しげな情報なのではないか、という印象を抱かせるので、なるべく普通の形で、と思ったが、(話では聞いていたものの)YouTubeの検閲の凄さを思い知った。それから、次は、もう少し慎重に、鍵となりそうな部分はピー音で消してみた。しかし、これもすぐに削除され、しばらく動画が公開できなくなった。なぜだろう、声質のブラックリストがあり、その声を察知すると自動で削除されるようにでもなっているのだろうか。

公認報告者という仕組み

YouTubeの検閲の仕組みがどうなっているのか調べてみると、詳しい精度などに関しては分からなかったが、一つは「自動検出システム」、もう一つがユーザーからの「情報提供」をもとに、両者によって集まった情報をガイドラインと照らし合わせ、審査の上、削除される、という形のようだ。ただ、あの「瞬殺」具合からすると、審査というのが入らずに、即決だったようにも思える。

また、この「情報提供」に関しては、「公認報告者」という認定制度が存在している。YouTubeによって「公認報告者」として選ばれると、彼らの報告は優先的に削除されるそうだ。公認の密告者、といった印象を抱く。「公認報告者」が目を光らせ、見つけ次第報告し、優先的に削除される。この「公認報告者」に睨まれたら、その都度削除要請が出されることもあるのかもしれない。それでは、この“騒動”に関する「公認報告者」には、一体どんな人たちが選ばれているのだろうか。一覧のようなものは公開されていないが、現在名前が出ているのが、推進派の二つの団体、「コロワくんサポーターズ」と「こびナビ」である。

YouTube の公認報告者プログラムに、この度、新型コロナウイルス感染症や新型コロナウイルスワクチンに関する正確な情報を届ける医師のプロジェクト、コロワくんサポーターズ等の専門家が新しく加わりました。公認報告者から YouTube に報告される動画は、優先的に審査の対象となるほか、継続的な意見交換等が実施されます。 – YouTube の新型コロナウイルス感染症やワクチンに関する日本での取り組みについて

日本版YouTubeの公式ブログに、「コロワくんサポーターズ等」が、公認報告者に加わった、とある。また、In Factの記事によれば、こびナビも公認報告者になっている。

「こびナビ」がYouTubeの「trusted flagger (公認報告者)」となっていることやTwitter Japanと協力関係にあることは、これまでに報じられていないと思われる。

YouTubeの「trusted flagger (公認報告者)」になると、YouTubeのガイドラインに違反する、「誤情報」を発信するコンテンツの存在をYouTubeに報告した際、優先的に審査を受けることができる。「こびナビ」がYouTube上の誤情報を報告した場合には、動画が削除される可能性が高いということだ。– 厚労省やYoutubeとも連携する、「こびナビ」とは何か? 【ワクチンのファクト⑯】

彼らは、医師を中心とした強烈な推進派の団体であり、その推進の一環として、たとえば、コロワくんサポーターズの「デジタルコミュニケーション」担当の医師が、ダンスとともに推奨するPR動画もある。

このTikTokのダンス動画のコメント欄には、「私はワクチンが不安で打つのを躊躇っています。本当に先生が言ってることを信用してもいいのですか。あとで薬害とかになったりしませんか。」という質問も書き込まれている。不安になるだろうなと思う。

また、もう一つの団体である、こびナビの代表がPRのために歌った「ラップ」もある。

その他、こびナビのメンバーには、「mRNAワクチンは神」と言っていた医師もいる。神なら、きっと否定は許されないのだろう。

YouTubeが、情報のプラットフォームとして相当大きな存在になっているとは言え、あくまで民間企業であり、検閲に協力している団体も民間である以上、厳密には「検閲」「言論統制」とは言えないのかもしれない。

ただ、先ほどのIn Factの記事によれば、こびナビと厚労省や政府は、相当密接な関係にあるようだ。YouTubeが私企業で、こびナビも民間の団体ならまだしも、もし政府や厚労省など公権力と深い繋がりのある団体が、人々の情報発信に関して、「誤情報」を取り締まるという名目で監視し、即座に削除しているとしたら、その分だけ「検閲」の度合いも強くなるのではないだろうか。

改めて、検閲とは何か。

言論や出版などの表現活動に対して、事前に公権力が思想内容を審査し、必要があれば、その内容などについて削除や訂正を求めたり、発表を禁止すること。日本では、検閲は、「日本国憲法」第21条で禁止されている。検閲は、絶対的禁止であり、公共の福祉などの制限を受けることはない。 – 図書館情報学用語辞典 第5版

思想・表現の公表(文書,写真,映画,放送など)に際し、公権力をはじめ社会的に力をもつ個人や団体がその内容を検査し、不適当と判断した場合に規制を加える(発売・上映等の禁止,変更,削除など)こと。 – 百科事典マイペディア

詳しい法律的な議論は分からないが、このスタイルが、あらゆる分野に広がったら、権力側の「公式」の情報以外は、専門家が疑問を呈しても「御用学者団体」の協力のもと次々「誤情報」として削除される、といった、だいぶ怖い世界になるのではないだろうか。その時代の一つの科学的な結論が絶対の権力ではないのに、議論や批判すら隠そうとするのだろうか。

>>GoogleとYouTube、「気候変動」を否定するコンテンツは広告掲載不可に

たとえば、地方のテレビ局が公式チャンネルでアップした、当地の医師が登場し、接種に疑問を呈した番組の映像もYouTubeで削除されている。

内容の一部には、「接種によって、逆に感染リスクが高まる可能性」を指摘し、また、「副反応による被害の危険性」などの訴えも含まれている(追記 : この動画は、後日復活した模様)。

議論するならまだしも、素人が勝手に言っているわけではない、れっきとした専門家の意見まで削除し、なるべく「見えないようにする」、というのはどうなのだろうか。

安全、安全、安全と謳って、そればかりが「正しい情報」であり、危険性を訴えたら「誤情報」として削除される。また、こういった情報発信の削除に当たって、政府等々が進めたい方針の邪魔になるからと、政府や省庁と関係の深い団体が検閲の一端を担うとしたら、それは問題ではないのだろうか。

こびナビは、「最終的にポリシーに違反しているかどうかを判断し、動画の削除を決定するのはYouTube側です。」と回答している。あくまで、ガイドラインがあり、そのガイドラインに違反しているかどうかを判断し、報告しているだけで、決定しているのはYouTube、ということなのだろう。

ところで、他の公認報告者には、どんな団体があるのだろうかと過去の記事などを見ていると、法務省という名前があった。これは「人権侵害」対策の一環として行われるようだ。

動画投稿サイト「ユーチューブ」に不適切な投稿の情報を提供する「公認報告者」として、法務省が運営会社のグーグルから認定を受けた。日本の政府機関では初めて。後を絶たないネット上の誹謗中傷に対し、同省は巨大IT企業と連携を進めることで対策の強化を図りたい考えだ。 – 法務省、グーグル「公認」に ネット中傷対策で連携強化|朝日新聞

省庁が、直接「報告者」を担ってもいいのか、と素朴に疑問に思う。それなら、厚労省も、もし本気で公衆衛生に関する「誤情報」を根絶したいのであれば、「医療情報監視部隊」を創設し、次々削除していったらいいのではないだろうか。

それとも、それはさすがに検閲が露骨すぎるから、直接の介入はしないのだろうか。

モデルナのCM

検閲で言えば、この騒動を分かりやすく政治利用しているように見える、厳しい「ゼロコロナ政策」を行なっている中国では、サッカーのワールドカップ中継によって国民から「ワールドカップは別の惑星の出来事か」と疑問や抗議の声が上がった。

そのため、拡散されたメッセージアプリの文章が検閲に遭ったり、試合を中継する関係者に対し、マスク未着用の観客やお祭り騒ぎをしている映像は突出させないよう指示が出たと言う。

中国のメッセージアプリ、微信(ウィーチャット)では22日、ゼロコロナ政策の継続を疑問視し、中国はカタールと「同じ惑星にいる」のかと問う公開書簡が瞬く間に拡散され、のちに検閲された。

ツイッターに似た中国のソーシャルメディア、微博(ウェイボー)には、試合を見ていると、世界の国々との分断を感じるとする投稿があふれている。

一部からは、何十万人もがマスクを着けず、検査証明の提示も求められずに集まっている光景が「異様」に見えるという声も上がっている。「社会的距離を保てるよう離した座席はないし、ピッチ横には白と青の(医療)服を着た人がいない。この惑星は本当に分断されてしまった」。

「一方にはW杯というカーニバルがあり、もう一方には公共の場所に5日間行ってはいけないという規則がある」と言う人もいる。

W杯開催地の光景が、自分たちの国の様子となぜこんなに違うのか、子どもに説明するのが難しいという声も出ている。– 「W杯は別の星の出来事?」 ゼロコロナ政策の中国で不満の声|BBC

もし徹底するなら、当然、不都合な情報には触れさせないようにする、というのは、理に適っているし、こういう国にしたい、というなら、こっそり行わずに、言論統制を正面から推し進めたらいいのではないかと思う。

それにしても、この「W杯開催地の光景が、自分たちの国の様子となぜこんなに違うのか、子どもに説明するのが難しい」というのは、日本でも同じことが言えるのではないだろうか。

画像 : ふるさとの味 近江八幡の小学校の給食に地元老舗の水ようかん|NHK 2022.11.22

画像 : FIFA World Cup[Twitter]  2022.11.24

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